〇 今日の一献 35mm距離計連動式蛇腹カメラ フォクトレンダー ビトーⅢ

―― 高性能コンパクト35㎜カメラを目指したはずが、高級・重厚になってしまったカメラ

 フィルムメーカーの巨人コダックが1931年に発売した、装填が簡便なパトローネ入りの35mmフィルムを使うカメラとして、ドイツ・コダック社が開発したコンパクト蛇腹カメラ、レチナシリーズの成功に触発され、当時のドイツのカメラメーカー各社からも各種のコンパクト蛇腹カメラが発売された。

 その中でもビトーⅢ(VitoⅢ)は、カメラの老舗フォクトレンダー社が1939年に発売したビトーⅠを初号機とするビトーシリーズの最高級コンパクト蛇腹カメラとして、同社が開発したばかりの高性能レンズと連動距離計を初めて搭載して1951年に発売された。

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 ボディは、同社の中判カメラ ベッサⅡのように、軍艦部の操作パーツは左右対称に配置され、下に開く前蓋はかまぼこ型に曲線を描いて、全体のフォルムは丸みを帯びた女性の優雅なトルソをさえ想わせるデザインとなっている。


〇 レンズとシャッターの機構

 ボディの底にある解除ボタンを押して前蓋を開けると、油圧式でもないのに二本のレールに載ったレンズとシャッターが静々と引出されてきて、自動起立して組み上がる。

 この点、スーパーイコンタなどのようにバチンと勢い良く飛び出して組み上がらないところも、女性的で奥ゆかしい。

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 レンズは、フォクトレンダーのA.W.トロニエ博士によって1950年に開発されたばかりの、コーティングされた高性能 ウルトロン(Ultron)50mm f2.0が付いている。

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 ウルトロンレンズは、6種もの硝材を使った5群6枚構成の変形ガウスタイプレンズで、非点収差、像面湾曲、歪曲収差といった光学レンズの持つ課題を良く解決しており、初期にはレンズシャッター用に開発されたものだったが、以後発展して高級交換レンズなどに利用されていくことになる。

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 シャッターは、初期型のこのカメラにはコンパー・ラピッドシャッター(ドイツ式シンクロ接点)が装着されているが、セルフタイマーは付いていない。

 なお、ビトーⅢの後期型は、MXシンクロ接点を備えたシンクロ・コンパーとなる。
 シャッターにはレチナⅡaのように、フィルムの巻上げと同時にチャージするオートチャージ機構はないので、撮影前にはチャージする必要がある。

 速度ダイヤルは B、1、1/2、1/5、1/10、1/25、1/50、1/100、1/250、1/500秒。
 絞りは、f2、2.8、4、5.6、8、11、16まで。
 
 
〇 焦点調節とフィルム巻上げ機構
 ピント合わせは、一眼式のファインダーを覗きながら、軍艦部の左にある大きな焦点調節ノブを回してレンズを前後させながら行う。

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 ファインダーは明るいものの小さくブライトフレームは少し見づらいが、フレーム中央に浮かび上がった丸い二重像を重ねることでピント合わせを行う。

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 フィルムの巻き上げは、軍艦部右にある大きなノブを回して巻上げる。 
  
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 巻き戻しは、巻き上げノブとシャッターボタンの間にあるボタンを押して逆転ロックを解除しながら、左の焦点調節ノブの上にある巻き戻しレバーを立ててを回しながら巻き取る。
 
 巻き戻し後のフィルムは、巻き戻しレバーを引き上げて軸をはずしてパトローネを取り出す。

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 裏蓋の開閉は、左両隅にあるレバーを同時に押してロックを外して行う。
 35㎜フィルムのパトローネは左室内に装填し、フィルムは左から右へ移動し右にあるスプロケットで巻き取る。

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 裏蓋の内側に付いたフィルム押えは、脱落の恐れがないスマートな設計で、平面性の確保に工夫がされた圧板が設けられている。

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 カメラの速写ケースは、スマートなデザインの60年以上経過したとは思えない上質な皮で作られている。

 この時代の蛇腹カメラの特徴として、カメラを吊り下げるためのアイレットが付いていないことが多く、残念ながらこのカメラにも無いから、速写ケースは必須アイテムとなる。

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 ところで、なぜ「速写ケース」と呼ぶのか今まで不思議に思っていたが、考えてみれば、これまでの古典カメラのボディは大きく、木製や板金製だったことから、その携帯と保護のために吊紐の付いた皮ケースに入っており、撮影時にはこのケースから取り出して組み立てて使うのが普通だったから、カメラ本体にアイレットは必要なかったとみられる。
 (もっとも、取り出し用に片サイドに皮の取っ手が付いていたが、これは撮影時のカメラ保持用ではない。)

 そのうちに、カメラがコンパクト化して中判や小型になって速写性が高まってくると、いちいちケースから取り出すのが面倒となり、カメラの前蓋を開ければ撮影ができるケースが工夫され、これを「速写ケース」と呼ぶようになったのだろうと思われる。

 なお、時代がさらに下って、ボディの剛性が高まり、より速写性が求められるようになると、カメラ本体に吊環(アイレット)を直接取り付けて紐を通しボディを携帯する、現在普通に見る姿になる。

 
〇 ビトーⅢのアクセサリー

● ボディの底の高下駄
 ビトーⅢの前蓋が下に開くことになったことから、レンズを引き出して組上げて机の上に置くと、前蓋の厚みでカメラのレンズが上を向いてしまう。

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 この対策として、同じく前蓋が下に開く中判スーパーイコンタや35mmコンテッサなどでは、裏蓋に格納した金属の舌を引出して高さを稼いでいる。

 ビトーⅢでは、ボディの底に付けた金属板を開いて、まるで高下駄のように高さを調節して水平を確保している。

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 この場合、単なる金属板だけでは芸が無いと考えたのだろう、金属板には回転する小さな円盤にフィルムの有無を表示するメモアクセサリーが付けられているのはご愛嬌だ。

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● アクセサリーシュー
 ビトーⅢにはストロボを装着するアクセサリーシューがもともと装備してなく、必要に応じて別に用意された着脱式のシューを装着するようになっていたようだ。

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 この固体には、後付工作で別機種のシューが固定されており、実利的ではあるけれど、軍艦部の美観が損なわれているのが残念だ。


○ フォクトレンダー ビトーⅢ(前期) の仕様

〇仕様 ビトーⅢ 20170505-000

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〇 ビトーⅢの取扱説明書と宣伝広告
 
 英語版の取扱説明書の一部

〇取り説 ビトーⅢ 20170505-001
〇取り説 ビトーⅢ 20170505-002
〇取り説 ビトーⅢ 20170505-003
〇取り説 ビトーⅢ 20170505-004

 ビトーⅢの宣伝広告
 
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〇 ビトーⅢの撮影例(Ultron 50mm f2の写り)

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 近くの寺院の山門
 ウルトロン(Ultron)50mm f2

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 梅と石灯籠

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 名古屋市内中村公園の「日吉丸となかまたち」

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 名古屋市内中村公園の記念館の唐風玄関

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 高架ガードを過ぎる赤い名鉄電車

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 名古屋大須観音の本殿と観音噴水


 フォクトレンダーはビトーⅢを発売した1951年前後には、敗戦後のドイツの社会・経済の混乱を振り払うかのように、満を持して相次いで新開発の高性能ウルトロンレンズを装着した35mmプロミネントやビテッサなどの独創的で高品質のカメラも発売した。

 このとき、世界初の光学機メーカーである誇り高きフォクトレンダーは、自社の戦後復興の象徴としてこれらの新製品をラインアップしたことで、大きな高揚感に浸っていたに違いない。

 しかし、ビトーⅢに限ってみても、本来、小型・軽量(コンパクト)な35mm蛇腹カメラを目指したはずだったにもかかわらず、ただでさえ堅牢なダイキャストボディに、重量のある高性能レンズや連動距離計を装着し、大きなノブなどの操作パーツを組込んだことによって、他社の同系列カメラに比べて相当高価で重厚(650g)な高級カメラとなってしまっている。

 このため、当時のユーザーからは必ずしも多くの支持が得られたカメラではなかったようで、生産量も少なかったと見られるが、かえってそのことが、現在ではこのカメラの希少価値を高めているといわれる。










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