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〇 今日の一献 遅れてきた青年 ウエスターオートロール(Wester Autorol)

―― 最後発組のスプリングカメラ

 もう古い作家だが、大江健三郎の作品で『遅れてきた青年』(1962年)というのがある。
 地方の山村に生れ育った青年が、勇敢な兵士として死ぬはずの戦争に遅れ、60年安保闘争やポスト安保の安逸な時代精神にも遅れた、戦後世代共通の体験を描いた「遅れてきたものの自己弁護」の半自伝的小説だといわれる。

 ここで紹介するWester Autorolは、なぜかこの小説『遅れてきた青年』を彷彿させるカメラだ。

 このカメラのメーカーの西田光学工業は1936年に設立され、1950年代まで様々な規格のレンズやシャッターを専門に生産し当時の中小のスプリングカメラのメーカーへ供給する傍ら、戦中・戦後を通じて前玉回転式のセミ判(4.5×6)カメラの生産も行っていた。
 
 戦後もセミ判のSemi Westerや、6×6判のWester Chrome Sixを生産したが、1955年発売のSuper Westerから全群ヘリコイド二重像合致式連動距離計を備えた高級スプリングカメラの生産へと移行する。

 このWester Autorolは、全群ヘリコイド二重像合致式連動距離計を備え、その上フイルムの自動巻止め(セミオートマット)やカウンターの自動復元と二重撮影警告表示機構を追加した西田光学工業の最上級カメラとして1956年に発売された。

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 この会社が生産するカメラに付けられる「Wester」の名前の由来は、一般には西田光学工業の「西(West)」と「田(「ter)」から採用されたものとされているが、一方では「Wester」は英語で「(強い)西風、洋風」の意味があり、海外に輸出しても受け入れられやすいだろうとの目論見もあったと思う。


● レンズとシャッターの機構

 レンズは、自社製の単層コーティングされたトリプレットタイプ(3群3枚構成)の標準75mm f3.5のWESCON F.Cが付いている。

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 シャッターは、これも自社製のNKKプロンタータイプのセルフタイマー付きのシャッターで、シンクロ接点は普通のドイツ式接点。
速度は B、1~1/400秒。
 絞りは、f3.5、4、5.6、8、11、16、22。

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 撮影には、鏡筒の上にある小さいノブを下げてシャッターチャージしておいてから、本体の右側にあるバー(ボディシャッター)を下してシャッターを切る。


● 焦点調節とフィルム巻上げ機構

 梨地にクロームメッキが美しい軍幹部には、右に逆ガリレオ式透視ファインダーと左に採光ブライトフレームがあり、その間に誇らしげに赤地に銀色の「Autorol」の浮き出し文字がデザインされている。

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 ピント合わせは、一眼式のレンジファインダーを覗きながら、鏡筒上部にあるかまぼこ型の焦点調節レバーをスライドして鏡筒(レンズの全群)をヘリコイドで前後させて行う。

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 ファインダーは思ったよりも明るく、フレーム中央に黄色の四角いブライトフレームが浮かび上がっており、この二重像を重ねるピント合わせは容易だ。
  
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 ピント合わせは鏡筒部のヘリコイド(螺旋溝)を前後させて行う。
 レンズのピント合わせの方式は、レンズの前玉だけを回転させて前後移動してピントを合わせる前玉回転方式と、レンズの全て(全群)を前後移動してピントを合わせる方式がある。

 一般に前玉回転方式はレンズの繰出し量が2mmほどだから、鏡筒の周囲に目盛が付けやすく、距離計非連動の低価格カメラに多用されてきたが、距離計連動式の高級カメラでは、繰出し量が多い全群繰出し式が使われている。
 ただし、ドレーカイルによる距離計連動式の高級カメラであるスーパーイコンタだけは、前玉回転方式が採用されている。

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 鏡筒部の側面と蛇腹の繰り出し固定タスキ。
 タスキに西田光学工業の略称、NKKがプレスされている。

 フィルム装填は、他の120ブローニーフイルムを使うスプリングカメラと同じで、比較的に容易だ。
 フィルムは左から右へ移動するから、120ブローニーフイルムを左室内に装着し、フィルムの端を右の巻取りスプールに通して巻き取る。

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 フィルムの巻き上げは、軍艦部の右の大型ノブを回して行う。
 ノブに描かれた矢印の方向に回して装填したフィルムを巻いてゆけば、セミオートマット機構が働いて、背面のノブの下にある順算式フィルムカウンターが1で停止する。

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 撮影後に、軍艦部の背面のノブの下にあるレバーを横にスライドしてロックを解除してから、次のコマへと巻き進めると、カウンターが2で自動停止する。最終コマ数12を撮影後は、そのまま最後まで巻き取り、裏蓋を開けてフィルムを取り出す。

 二重露出防止装置は付いていないが、シャッターを押して撮影すれば、ファインダーの中に赤の印が出て、二重露出の防止を警告してくれる。
 この印しは、ノブを回してフィルムを巻き取れば、解除されて消える。

 規格が同じで転用したからだろうか、裏蓋の背面のグッダペルカには、前のモデルのWester Sixの文字が入っている。

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 軍艦部の上部には、大きな簡易露出表が付けられている。
 距離計連動ファインダーが大きく軍艦部が広くなったから、こうした設計をしたのに違いないが、これを美観が損なわれると観るか、親切設計で好感を持つかだが、、、。
 たまにドイツカメラで見かけるのだが、わたしには邪魔なものにしか思えない。
 
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 蛇腹を折りたたんで鏡筒部を格納すれば、コンパクトになるのがスプリングカメラの一番のメリットだ。

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 カメラの鏡筒格納部の蓋上部にあるボタンを横に押すと、スプリングの力で折り畳み式の蛇腹が自動起立して撮影状態に組上がる。

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 60年経過した今でも立派に通用する、しゃれたデザインの革ケース。

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 西田光学工業は、Wester Chrome Six Rにはオリンパスの高級ズイコーレンズを付けて競合他社との差別化を狙ったり、1956年(昭和31年)にこの最上級スペックのWester Autorolを発売したりして経営の挽回を図った。

 しかし、このころにはすでに同程度のスペックを備え、高級レンズを装着した有名メーカーのマミヤ6-I型(1940年)やスーパーフジカ6(1955年)などが発売されており、トリプレットのレンズで低価格路線を狙ったものの、時代は35㎜フイルムカメラへと進んでいる時期でもあって、もはや最後発組の遅れてきた青年だったことは否めなかった。

 さらに末期には、レンズやシャッターのスペックダウンの低価格機種を発売したり、35mmレンジフアインダーカメラAuto Westなどの生産にも進出するなど、短期間に様々な対応策を講じたものの、折からのカメラメーカーの厳しい淘汰の波には抗いきれず、ついに1958年1月に倒産した。


● Wester Autorolの仕様

○ Blog wester autorol  20160200


● Wester Autorolの取扱説明書と宣伝広告
 
  Wester Autorolの取扱説明書の一部

● WESTER AUTOROL-01

● WESTER AUTOROL-02

● WESTER AUTOROL-03

  Super Westerの宣伝広告
  (Wester Autorolの広告が見つからないので、とりあえず代用で。)

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● 撮影例

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 早春の梅の花
 Kodak Ektar100
 1/200sec f8

00-20160213 wester autorol-014

 早春の梅の花
 1/200sec f11

00-20160213 wester autorol-015_edited-1

 村社 六所社の佇まい
 1/200sec f11

00-20160213 wester autorol-018

 新幹線がスピードを上げる区間
 1/400sec f8

00-20160213 wester autorol-019

 名古屋市営地下鉄の車内
 1/100sec f3.5

















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