〇 今日の一献 『若きヴェルテルの悩み』か ウェルタ・ペルレ セミ判(Ⅰ型とⅡ型)

―― かつてのカメラ大国ドイツの中級機メーカーのシリーズカメラ

 半世紀ほど前、当時高校生だったわたしは、級友のI君と些細なことで言い争いをしたことがある。
 それは何の会話の流れでだったかはもう忘れてしまったが、ドイツの文豪、ゲーテの作品『Die Leiden des jungen Werther』の日本語の題名について、聞きかじりの知識でわたしが「ゲーテの代表作品に『若きヴェルテルの悩み』がある。」と言ったときに、「いやそれは、『若きウェルテルの悩み』と言うんだ。」と言って譲らず、お互い気まずい思いでその日別れたことがある。

 家に帰ってから辞書で調べたわたしは、自分が正しかったことを確認したのだったが、I君にはそのことは言わなかった。
少ししてから、街の本屋で手に入れて読んだ文庫本のその題名は、『若きウェルテルの悩み』秋山英夫訳(社会思想社・現代教養文庫 昭和39年第15刷)となっていた。

 何のことはない、「Werther」をドイツ語で読めば、「ヴェルテル」と発音し、英語で発音すれば「ウェルテル」となるわけだが、ドイツ文学作品名をどうして英語読みの題名にするのか、当時の若きわたしには悩ましく思われたものだったが、今も分からないままだ。
 なお、現在発行されている、ちくま文庫の場合、題名は『若きヴェルテルの悩み』となっている。

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 さてここに、戦前から日本に多く輸入された、かつてのドイツの中級機カメラメーカーWelta社のカメラPerleがある。
ドイツカメラメーカーだから本来ドイツ語発音で「ヴェルタ」となるはずだが、なぜかこの場合も戦前の日本のカメラカタログや宣伝広告では「ウェルタ」と表記しており悩ましいが、どうやらいまもこれで通っているようだから、素直にそれに従ってこのカメラ名を「ウェルタ・ペルレ」として話を進める。

 ウェルタ社は、1914年に設立された中級機カメラメーカーで、「ペルレ(Perle)」はドイツ語のパール(真珠)を意味し、ウェルタ社のシリーズ名で1930年代には6×4.5cm判(セミ判)、6×6cm判、6×9cm判の各種蛇腹カメラが生産されていた。

 当時のカメラメーカーの多くは、全て自社製品部品だった巨人メーカー・ツァイス社やライツ社などの例外を除いて、同型のカメラでもシャッターやレンズが自社製品のほか、名の通った専門メーカーの製品をつけたものが普通に販売されており、それぞれの部品のブランド・グレードによってカメラの値段が違った。

戦前の神田三栄堂カタログ

 当時のカメラに使われていた国内外の各種シャッター
 (三栄堂本店(東京神田須田町)のカタログから)

○ Blog Welta Perle 20160200

 戦前の三栄堂本店(東京神田須田町)のカメラカタログ抜粋


 だから、東京神田須田町にあった三栄堂本店の戦前のカメラカタログによると、輸入カメラ「ウェルタ・ペルレ セミ判」の価格は、F4.5の自社製ウェルターレンズでプロンターⅡシャッター付の88円から、F2.8のテッサーレンズでSRコンパーシャッター付の230円まで、5機種あったことがわかる。

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 また、このカタログから、当時の優良国産機とされていたF4.5のコロナレンズ付きでクラウンEシャッターの「セミ・ミノルタ」の価格が、65円だったから、わたしの手元にあるF4.5のテッサーレンズでSRコンパーシャッター付のウェルタ・ペルレは180円で、当時の日本では高級機の部類に入ることになるようだ。

 とはいえ、1932年に発売開始され相当使い込まれたと思われるこのカメラは、わたしのところに来たときには、すでに80年以上が経過してボディの貼皮の部分や塗装が剥れ、金属部分のメッキもかなり錆び長年の埃に塗れていたから、まずは注意しながら丁寧に掃除しなければならなかった。
それでも奇跡的に、テッサーレンズと蛇腹には損傷がなかったしシャッターも生きていたから、少し整備・点検すれば苦もなく撮影が可能となった。

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 いまさらだけれど、蛇腹カメラは鏡筒を折りたためば、厚みは37㎜となり、折畳式のアルバダファインダーを畳めば高さは83㎜と小さくなり、横幅が118㎜だからジャケットのポケットに収まる大きさだ。

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〇 レンズとシャッターの機構
 レンズは、コーティングなしだが定評のあるCarl Zeiss Jena Tessar 75mm F4.5(3群4枚)が付いている。
 
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 シャッターは、旧ドイツのミュンヘンのシャッター専門会社、デッケル(Friedrich Deckel )社のリムセット型高級レンズシャッター・Sコンパー(セルフタイマー内臓、シンクロ接点なし)だ。
速度は T、B、1、1/2、1/5、1/10、1/25、1/50、1/100秒、と最高速度が1/250秒で実用には十分だ。
絞りは、f4.5、5.6、8、11、16、22。

 撮影には、シャッター周りの左上にある小さいノブを右にスライドさせてシャッターチャージしておいてから、左側のシャッターに付いたレバーを左に動かしてシャッターを切る。
 このカメラは前期型あるいはⅠ型と呼ばれるもので、後期型(Ⅱ型)になるとシャッターレリーズがボディに付くことになる。いわゆるボディシャッターだ。


〇 焦点調節とフィルム巻上げ機構

 焦点調節は、このカメラには測距機能がないから目測で距離を測っておいてから、ローレットの切られた鏡筒を回転させて刻まれた距離の数字に合わせれば、レンズの前玉だけが回転しながら前後することで焦点が決まる。
 常用する鏡筒部分は、指で擦れて塗装がはげて真鍮の地金が出ている。

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 齢80歳を越えてカメラ全体が老朽化しているが、青い地に白く浮き出た「Welta」のプレートは、唯一色あせもなく誇らしげだ。

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 ファインダーは折畳式アルバダファインダーで明るく、ファインダーに十文字の刻みが切ってあり、画角を決めることは容易だ。また、後期型(Ⅱ型)になると筒型のテレスコッピク・ファインダーとなる。
 二つの赤窓には、ボタンのスライドで開く感光防止カバーが付いている。

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 裏蓋の開閉は、カメラ左サイドの手提げの下にある金属ボッチをスライドしてロックを外して行う。
 裏蓋などは板金プレス加工だが、精度が高く開閉はスムーズだ。

 フィルム室の左に120ブローニーフィルムを装着し、フィルム軸を右の巻取り突起軸にあわせて装着して巻き取る。
 フィルム圧板は、イコンタのように黒く塗られていない。
  
 フィルムの巻き上げは、本体下の軍艦部の右の大型ノブを回して行うが、背面の裏蓋表面にある二つの赤窓の感光防止カバーを開いて、赤窓から見えるフィルムの裏紙に書かれた数字を探しながら巻き上げる。

 このころの120ブローニーフィルムはセミ判の6x4.5の数字が裏紙に記載されていなかったから、裏の2つの赤窓を使って、始めに左の赤窓に6x9判の数字の「1」を確認したら撮影し、次に巻き上げながら右の赤窓にもう一度「1」の数字を確認してから撮影することになっていた。これで6x9判のフィルムを半分ずつ使うセミ判となるわけだ。
 なお、二重露出防止機構はないから、多重撮影をしてしまうことに注意を要する。

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〇 ウェルタ・ペルレ セミ判の宣伝広告
 
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 「科学発達のほこるポケットに入る小型美装カメラ」のコピーで宣伝する、ウェルタ・ペルレ セミ判初期型(Ⅰ型)
 カメラの値段は、時期によって変動しているようだ。
 (1936年4月)

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 ウェルタ・ペルレ セミ判初期型(Ⅰ型)と6×6cm判カメラの宣伝広告


〇 撮影例

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 梅花の季節
 Carl Zeiss Jena Tessar 75mm F4.5
 
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 名古屋中村の常泉寺境内の梅
 Carl Zeiss Jena Tessar 75mm F4.5

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 名古屋中村の常泉寺本堂
 Carl Zeiss Jena Tessar 75mm F4.5

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 名古屋中村の常泉寺境内の豊臣秀吉の像
 Carl Zeiss Jena Tessar 75mm F4.5

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 名古屋中村の中村公園の日吉丸とその仲間たちの像
 Carl Zeiss Jena Tessar 75mm F4.5



○ ウェルタ・ペルレ セミ判 後期型(Ⅱ型)
 1938年ごろに発売されたペルレ セミ判の後期型(Ⅱ型)と前期型(Ⅰ型)との違いは、新たにボディにシャッターが付いた、いわゆるボディシャッターとなったことが大きな変更点で、他にはフィルム圧版がそれまでの無塗装から黒く塗装されたことと、Sコンパーシャッターがウェルタ社発注の仕様で「Welta」のロゴが誇ばしげに書かれていることぐらいだ。
 その代わりか、鏡筒下の表蓋の裏に付いていたブルーのWeltaのロゴプレートは省略されている。


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 ボディシャッターとなったペルレ セミ判の後期型(Ⅱ型)
 この固体もSコンパーシャッターにTessar 75mm F4.5レンズが付いている。

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 ペルレ セミ判の左は後期型(Ⅱ型)と右が前期型(Ⅰ型)

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 「小型カメラの最高基準」とのうたい文句の、ペルレ セミ判後期型(Ⅱ型)の宣伝広告(1938年11月)


 ところで、これらウェルタ・ペルレ セミ判のカメラは、その機構はきわめて簡便で原初的なカメラだが、付いているレンズやシャッターは当時の優秀な高級部品が使われており、いまではもう気にすることもなくなった「写真を撮るための一連の作法」を、改めてわたしに思い起させてくれる実用カメラだ。



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